たびんちゅ。

【Day39】美女と野獣

2018年5月19日
3カ国目:【イラン】イスファハーン


昨日の夜、彼女に電話して俺の気持ちを全て伝えた。

ここだけの話、俺も彼女のことが好きだった。

温度差に耐えられなかっただけだ。


ただ少しでもそんなことを伝えると、彼女に淡い希望を持たせることになるだろう。
俺は最低のクズになりきる覚悟を決めた。
今まで言ってきた言葉は全部嘘だと言おう。


「私も一緒にトルコに行きたい。」

「いやそれは無理だわ。」

「なんで?」

「俺は一人で旅がしたいんだ。一緒には行けない。」

「なんでよ?」

「こんなこと言いたくないけど、俺、君のこと好きじゃないんだ。」

「昨日までは好きって言ってくれたのに、どうして?嘘ついてたの?」

「ああ、全部嘘だよ。昨日言ったことも、これまで言ってきたことも。」

「どうして嘘なんかついてたの?」

「君を傷つけたくなかったんだ。俺が本心を言ったら傷つくだろ。だから言いたくなかった。」

「嘘つきは嫌いって言ったの覚えてる?だから嘘つかないでって言ったよね。それなのにずっと私に嘘ついてたのね。」

彼女は言った。

「知ってる?あなたは獣よ。私ずっとテストしてたの。昨日も私じゃなくて、道端で会った家族を優先したでしょ。その前もエブリン(何回か一緒に遊んだスイス人の女性)がアイス食べたいって言った時、私を置いてアイス食べに行ったよね。
だから気付いてたの。あなたの性格。あなたはクズよ。そして嘘つきの獣。」

「ああそうだね。俺は獣だよ。今までずっと嘘ついてきたクソ野郎だ。」

「なんで嘘なんかつくの。」

「俺クズだから。」

彼女は泣いていた。
俺だって心が痛かった。
でもこれが正解だと思う。

無理に関係を引き伸ばしたり、黙って去ったら彼女はもっと苦しむだろう。
別れた原因すら分からず自分自信を責めるかもしれない。

先週バスの中で彼女は言っていた。
「人の魂は愛を失うと死んじゃうんだよ。」
と。昨日も
「私はあなたが旅を終えてまたイランに戻ってくるのなんて待ってられない。死んじゃうわ。」
と。

俺は正直怖かった。
下手な別れ方をして彼女が自身の命を絶つんじゃないかと。

だったら俺がただのクズを演じて、彼女は悪くないってことを伝える。
クズ男に引っかかっただけで男運が無かっただけだって彼女に思わせなければ。
これが俺にできる最善の別れ方だろう。


「お願いだから正直に言って。今電話で言ったことは本心なの?それとも上手く別れるために嘘ついてるの?」

彼女は気付いてたのかもな。
でも自分で決めたことだ。貫き通さないと。

「本心だよ。俺嘘つきだから遊びで『好きだよ』『会いたい』とか適当に言ってただけだよ。」

「遊びだったのね。」

「そうだよ。ただの遊びだ。」

彼女はしばらく黙っていた。彼女のすすり泣く音だけがケータイを通して聞こえていた。
そして言った。

「あなたの気持ちは分かった。もう一緒に居てなんて言わないからひとつだけ約束して。日本に帰ったらあなたの友達にイランはいい国だって言って。世界は私たちイランのことは嫌いで、あなたみたいな嘘つきの国の方が好きなのよ。私はそれが悲しい。」

「約束する。」

「明日会いに行くわ。」

「俺はもう会いたくないんだ。」

「私は会いたいの。もう引き止めたりしないけど、あなたといるとすごく気分がいいの。」

「俺の本心を聞いただろ。それでも会いたいの?」

「それでもまだ私はあなたのことが好きだから。私の国にいる間はあなたは大切なゲストよ。イランを旅立ってもあなたの幸せをずっと祈ってる。」

俺は信じられなかった。
こんなに美しい人間がいるなんて。
そして強い。

クズを演じていたつもりだったけど、彼女に比べたら俺は本当にクズだった。
自分のことばかり優先していた。
今までの彼女への不満が全部自分に返ってきた。
最低なのは俺の方だ。


皆さんイランは本当に素晴らしい国です。
これは言われたから言ってるわけじゃない。
本心です。

イランが国際社会から嫌われてるのは政府のせいで国民のせいじゃない。
そしてトランプが核合意を抜けたおかげでイランの置かれる状況はますます悪化している。
その被害を受けるのはイラン国民だ。
なんの罪もない心優しい人達の日常が危険にさらされる。
クソ。

こうして俺の自己嫌悪と反米感情はまたすくすくと育っていく。

宿の中庭でただひたすらに黄昏ながら、無気力感と自己嫌悪で俺の心は満たされていった。




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